最後にありがとうと言えたなら ~亡くなった方が教えてくれたこと~

大切な方とのお別れの仕方をご遺体が教えてくれました

霊感納棺士

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無力な納棺師

日曜日の午前10時私はご遺体と向きあっている

隣接している公園からは子供の声が聞こえてきて、なんだか今いる部屋が別の世界にいるように感じます。
 
見ず知らずのご遺体と見ず知らずの場所で、こんな時間から向き合っているなんて殺人犯か納棺士ぐらい。もちろん、私は納棺士の方です。
 
71歳の男性は息子と離れて暮らしていました。昨日お亡くなりになり先程検死を終えて自宅で息子さんの到着を待っています。
葬儀会社の依頼で息子さんの到着を待たずに納棺を済ます事になりました。
洋服と雑誌と食べ物の残骸でうめつくされたこの部屋にヒントがないか見まわします。
 
生前の顔が知りたい!髭は全て剃っていまっていいのかな・・・。
 
もし霊能力があれば・・・。
 
以前占い師さんのところに行った時に、初対面でこう言われた事がありました。


「まず、お祓いしいてからじゃないと無理ね」

入ったばかりの入り口に戻り、背中をさすって占い師さんが何かを呟いて、お祓いのようなものが終わりました。

 

「あなたには、霊が話をきいてくれると思って寄ってくるのよ」
どうやら、占い師さんには私以外にも何人かが見えていたようです。
 
霊と話ができる人を霊能力者と言うなら、栃木の占い師、山下さんは本物の霊能者だと私は思う。私は彼女を通して亡くなった父のメッセージを受け取る事ができました。
 
「車の運転に気を付けて、特に橋を渡るときは交通量が多いからしっかり一時停止して・・・」
 
当時私は、川に囲まれた職場に片道1時間30分かけて通勤をしていました。その上、一日中運転している様子を心配性の父は気になっていた様でした。なんだか久しいぶりに父と会話した様でとても嬉しい時間でした。
 
霊能者も納棺士も「大切な人を失った遺族」と「亡くなった人」を結びつける仕事、という点ではとても似ています。
 

亡くなった人と繋がりたい

離れて住む40代の母親を亡くした息子さんに
「納棺士さん、母は苦しんで死んだと思いますか?」と涙を浮かべて聞かれた事がありました。

すでに納棺式が終わり棺の窓からはお化粧して眠った様なお顔が見えています。
ここで霊能力があるならば、息子さんの期待に応えるような返事もできたかもしれません。
 
しかし、私は無力な納棺士です。
 
「私にはお母さんの顔が苦しんだ様にはみえないのですが、息子さんから見てどんな風にみえますか?」と聞き返しました。
 
「今までの中で一番綺麗で、優しい顔でした」
下を向いたまま息子さんが小さな声で答えました。
 
納棺士は亡くなった方の声をメッセージとして届けることは出来ない。だから遺族の中にある思い出や、亡くなった人が残したお別れのヒントに耳をすまします。
 
今でも息子さんからの問いかけに対する答えが、これでよかったのか考えるときがあります。だけど、どんなに頑張っても正解は出ないのです。
 
だけど、寝ているようなお母さんの顔をみて、息子さんは安心しいた様に見えました。
亡くなった人と遺族を結びつけるものは、亡くなった人からのメッセージだけではないのかもしれません。

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私は霊能力がないくせに、亡くなった人によく話しかけます。
「この髭は剃ってもいいのですか?」
「口紅はこの色でいいかな?」
「なんで自殺なんかしいたの?」
 
聴いてもらえると思って寄ってくる霊もいるのに私には全く聞こえないのです。聴けたらどんなにいいだろう。
 
多分、霊能力がある納棺士は最高だと思う
霊能納棺士…いや、霊感納棺士になりたいのです。
 
霊感納棺士なら、お化粧をどんな風にするのか悩んでる遺族に、「お母さんはいつも使っていた口紅がイイと言っていますよ。口紅はその引き出しの中です」と話せるのに。
最後にお父さんと喧嘩したことを後悔している子供には
「お父さんも喧嘩したことを後悔してるよ。もう気にしないで欲しいと言っています」
 
そんな風に言ってあげたい時もある。
 
どんなに望んでもやっぱり私には亡くなった方の声は聞こえない。

 

だから必死に耳や目でヒントを探すしかないのです。