「ペットとのお別れ」
最近の自宅での納棺式では参列者の中にペットがいるのは、当たり前の光景になりました。
納棺式でワンちゃんネコちゃんが飼い主からずっと離れない。いつもはしない遠吠えや、トイレ以外でおしっこをしてしまう。などご遺族から聞くことがあります。亡くなった方のそばで元気のない動物たちをみていると、この子たちは人間が思うより敏感でいろんなことをわかっていると感じます。

60代の男性の納棺式でご自宅に伺うと、中型の茶色いワンちゃんがお腹と顎を床につけて、お父さんの寝ている布団の横でじっとしていました。こんにちはーとワンちゃんに挨拶をして反対側のお布団の横に私も座りました。ちょっと頭を上げて私を見た後、また床に顎をつけてお父さんを見ています。
お父さんの枕元にはワンちゃんのおもちゃであろう「音の鳴るボール」や「ロープで作られたおもちゃ」が置かれていました。大好きだったワンちゃんとの思い出の品だと思った私は、棺に入れても大丈夫かなと考えながら納棺式の準備を始めます。
奥様が「シロー、おもちゃ邪魔だからしまおうね」とワンちゃんに話しかけながら隣の部屋におもちゃを持っていきました。棺に入れる物じゃなかった…。
シロ君も奥様の後を追ってお部屋から出ていきます。しばらくすると入口のドアをたたく音が聞こえました。顔を上げて音のする方向を見ると、おもちゃを持ったシロ君が部屋の入口の摺りガラスの向こう側に鼻をピタっとくっつけています。
さっき枕元にあったおもちゃは、お母さんじゃなくてシロ君がもってきていたのか。なんだか可愛くて、閉められていたドアを開けに立ち上がりました。ドアを開けきる前にシロ君は体を隙間にねじ込むように、部屋に入ってきました。速足でお父さんのそばに行くとおもちゃを置きます。おもちゃを置くと安心したように、また先程と同じ場所に伏せの姿勢でじっとしています。
シロ君がお父さんと遊びたいように、きっとお父さんも布団から飛び起きて遊びたいだろうな。白い毛をなでてあげたいだろうなと想像してしまいます。そんなお父さんを待っているシロ君。
私が処置をしている間も、けなげに待っている姿を見ているとこちらも切なくなります。
準備が整ったことを奥様に告げ納棺式が始まります。死後の処置で開いていた口が閉じられて穏やかなお顔のお父さんを見て、奥様は
「なんだか寝ているみたい」とつぶやきました。
そして枕元に先程片付けたはずのおもちゃを見つけると、あれ?もうシロが持ってきたの?と驚いていました。
「お父さんはもう遊べないのよ」と言いますが、シロ君は変わらず伏せの姿勢のままです。
納棺式が進み、納棺師二人と葬儀の担当者、奥様でシーツを使いお父さんの体を棺の中へ移動します。すると今まで静かだったシロ君が吠えました。一緒に納棺式を行ったもう一人の納棺師は犬が苦手で、吠えられた時はお父さんを落としそうになったと言っていましたが、何とか無事に棺へとお父さんを寝かせることが出来ました。
シロ君はお父さんが棺の中に入った後もしばらく鳴いていました。
奥様がシロを撫でながら「さみしいよね」と話しかけるとぴたっとシロ君は鳴くのを止めました。棺の横に置いてあったおもちゃを咥えて奥様のところに行くと正座している足の横にぴったりとくっつくように座りました。
動物ってすごい。自分がもらった愛情をちゃんとわかっていて、自分のこれからの役割さえ理解しているように私には見えました。
ペットとのお別れは必ずやってきます。
エンディング業界の展示会ではペットのお骨を入れる入れ物や棺やお布団など亡くなった後どんな風に送ってあげるかの選択肢が増えています。
もともと動物病院の看護師さんでもある吉田麻美さんは「Eva Dog」の代表として、亡くなったワンちゃんのトリミングやエンゼルケアを行う世界初のペットの納棺師さんです。
我が家でも以前どんちゃんというウサギを飼っていて子供たちもとてもかわいがっていました。亡くなってからの体の固さは本当にショックで今でも感触を忘れません。
それは亡くなった後の筋の硬直という状態でもちろん人間も同じことがおこります。
筋肉の硬直なので高齢者の方やもともと筋肉の量が少ない方は硬直が少なかったり、硬直がないように感じたりすることもあります。
犬や猫の筋肉量は種類によっても違いますが人の筋肉量の2倍から3倍、だからあんなに早く走れるし、人間より高くジャンプすることができます。そんなペット達が亡くなった時、きっと想像するより筋肉は固く硬直してしまいます。
以前、吉田さんから亡くなった後のトリミングの様子を見せていただいたことがあります。筋肉を優しくマッサージしシャンプーをして毛並みもきれいにしてくれます。見た目でもわかるくらい毛並みがフワフワ、モコモコしていて頼んだ方はとても喜んでいました。
沢山抱っこしてきたワンちゃんネコちゃんだからこそ、最期の抱き心地が変らないことはペットとのお別れには必要な条件だと思ってしまいます。
ペットは家族の一員。
今、我が家では2匹の猫と生活しています。人間と違っていつまでも世話をしなければ生きていけない存在です。普段は丸くなり静かな猫ですが、皆が寝静まったとたん喉をぐるぐると鳴らしながら撫でろと顔を前足でつついてきたり、忙しい時に限って猫じゃらしを咥えて足元に置いて遊んでとせがんだりします。そうかと思えば遊んでやろうと必死で猫じゃらしを振ってもすっと目をそらしたりもします。
何もしゃべらず、悲しい時や嫌なことがあって落ち込んでいると、いつの間にか傍にいて「撫でてもいいよ」とお腹をみせるこの存在がいなくなることなんて考えられません。
ペットを亡くされたある方が「主人を亡くした時よりも、悲しみが大きいのに誰にも分ってもらえず半年間は家に閉じこもっていた」と話されていました。
身近な方を失ったときは、葬儀という悲しみに向き合う時間を作るために会社や学校を休める「忌引き休暇」があります。休みを取れば、この人は大切な人を失っているので暖かく見守ってくださいと周知できる役割も担っていると思います。関係性にだけで日程が決まっているのはどうかと思いますが、ペットに関してはまだ忌引き休暇の対象になっていません。大切なペットを亡くした時に周りに理解してもらえないと感じるのはこういった社会の制度が追い付いてないことも原因の一つなのかもしれません。
一冊目の本に紙の納棺式という儀式を紹介しました。
もし亡くなった方と繋がりたいと感じたら、A5ぐらいの紙にその方との思い出を張り付けていきましょうというものです。
ペットを亡くしたときも、葬儀という儀式の代わりに思い出の写真や、好きだったおもちゃや食べ物を一枚の紙に張り付けてみてはどうでしょう。そして家族の見える場所に飾って思い出話をするのもいいですし、一人一人が思い出すだけでも小さな存在を傍に感じるきっかけになるかもしれません。
今、目の前のソファーの上でお腹を上にして猫らしからぬ格好で寝ている猫たち。私たちを幸せにしてくれるこの小さな動物の大きな存在を改めて感じます