最後にありがとうと言えたなら ~亡くなった方が教えてくれたこと~

大切な方とのお別れの仕方をご遺体が教えてくれました

どんな顔で逝きますか?

亡くなった時、棺の窓から見える顔は穏やかでありたい。

 

もう、自分は亡くなってしまっているから、どうでもいいと思う人もいるかもしれません。

だけど残された人にとっては、身近な方の死顔は穏やかであってほしいと願うものです。

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ご遺族と話をしていると、以前見送った方の死顔を後悔している人は案外多いのです。

 

別人のように痩せてしまった。

口が開いていて苦しそうに見えた。

お化粧した顔が別人のようだった。

 

それはその後の人生を変えるような出来事になることさえあります。

 

最近は少なくなってきましたが、以前は鼻や口から綿が出ていて口元も大きく開いている人も沢山いました。おじいちゃんでも、おばあちゃんでもピンク色の頬紅、口紅が塗られていることも。

高齢で亡くなった方のほとんどは口が開いた状態です。納棺士としてご遺族のもとに伺うと、一番多い要望が「口を閉じてほしい」という要望です。

 

口元の印象は人の感情を表現するところだなと感じることがあります。しかし、口元を整える技術の難しさを感じることもあります。

人は亡くなると筋肉が硬く硬直してきます。

しかし、時間の経過とともに硬直が解けてきます。また、高齢の方は元々の筋肉量も少なくなり硬直が感じられないこともあります。

顔も表情筋などの筋肉でできている為、硬直が解けると口が開き、重力に従って平面化していくのです。

 

亡くなったかたは上向にお布団で寝てますので、お顔のシワが無くなった様に見えるという嬉しい作用もあります。しかし、その反面表情が変わった様に見える問題もあります。

 

表情がどう変わって見えることがあるのか?

一例を挙げると、口元が閉じている状態である場合、重力によって口角が引っ張られたように大きく見えることがあります。

 

死化粧では口元が広がって見えないように、口角ギリギリまで口紅を描かかず少し内側にラインを取ります。

 

そしてこの口角も、上がれば微笑んでいるように見えますし、下がってしまえば、悲しげに見えたり怒っているように見えてしまうのです。

 

それほど、繊細な亡くなった方のお顔。

 

そのお顔が穏やかだとご遺族は、故人に近づきお別れの時間を安心して過ごしています。

 

処置やお化粧前は、言葉少ないご遺族が穏やかなお顔に対面すると、いろんな思い出話を始めたり、要望が次々に出てくることはよくあります。

 

だからこそ、なんとかご遺族の頭の中にある故人に近づいけたい。

 

しかし、時には納棺式を終えて、がっかり肩を落として帰る時もあります。

 

もっと何かできたのでは…。自分自身が納得出来ないこともあります。これは、経験年数に関わらず、どの納棺師も経験していることです。

 

だからこそ学ぶ事がなくならない、大変で、最高の仕事なんだと思うのです。

 

棺からのぞくその顔がどんな顔でありたいか。

それは、送る遺族と納棺師次第なのかも知れません。