最後にありがとうと言えたなら ~亡くなった方が教えてくれたこと~

大切な方とのお別れの仕方をご遺体が教えてくれました

納棺式の流れ

 

 納棺式の流れ

死を弔う動物たち

葬儀というものはよく出来ていると思う。
亡くなった者を弔うのは特定の哺乳類だけという話を聞いたことがありますが、身近な誰かを亡くした時の悲しみは動物にもあるに違いないとおもうのです。

f:id:aki0602:20190926062704j:image

 

象は死んだ仲間を持ち上げようとしたり、草を口に含ませたりするらしい。
ドイツの動物園ではゴリラが死んでしまったわが子を悲しげに抱き寄せ、背中に乗せ続けた記事がネットで話題になったこともありました。
人間は長く繰り返されてきた大切な人とのお別れの悲しみを『死を弔う』という行為で、自らを癒してきました。

そして納棺士として働いていると、いにしえの人は葬儀という形で悲しみを乗り越える手段を後世へ残してくれたのではないかと感じることがあります。

 

穏やかな顔でお別れをしたい

納棺式は、通夜や告別式とは違い、ごく身近な人たちだけで行う、大切な人とのお別れの場です。納棺士はそのお別れを安心して行っていただく為に、死後の変化を最小限に抑え、生前のお顔に近づけます。
亡くなった方は、死因によって顔色が変わっていたり、痩せていたり、浮腫みがあるなど様々です。

 

50代のお母さんを、亡くされた娘さんは癌で痩せていく顔を見るのが怖くて最後はお見舞いにも行けなかった。とおっしゃられていました。お母さんの顔が含み綿で、ふっくらとすると「ごめんなさい」と顔に触れながら泣かれていました。

亡くなった方の顔が穏やかなことは、ご遺族が死という現実に向き合うためには必要な事なのかもしれません。

 

納棺式の流れ 
納棺式の形は様々です。葬儀社によってはあらかじめ葬儀担当者の手によって棺にお寝かせし死後の処置や着せ替えや旅支度、お化粧などを行い通夜当日にご遺族に確認してもらうだけという事も少なくありません。

これには一部の安置施設や葬祭場の「ご遺体は棺の中に納めて安置しなければならない」というルールも関係しています。

最近では葬儀の簡略化が進み都心では葬儀をせず火葬のみを行う直葬や火葬式もふえています。しかしそれと同時に人間の悲しみに対する反応や家族の絆が薄くなっているとは思えないのです。

葬儀にはいろいろな形があるべきだと思います。生き方が多様化している訳ですから、それは理解出来ます。しかし、火葬だけの葬儀に、死を受け止め、亡くなった方を思う「死を弔う時間」があるのかは疑問です。

 

さて、話は納棺式の流れに戻します。
納棺式の内容はご遺族によって違いますが、大まかな流れがあります
ご自宅での納棺式は私達が伺いご挨拶するところから始まります。
初対面のご遺族に会ってすぐ、その方の1番大切な物に触れるわけですから、第一印象が大事です。
お参りを終えた後、ご遺族の方と簡単な打ち合わせを行います。
故人について何か心配な事がないか、生前と変わっているところはないかをお聞きします。特に 鼻、口元の手当て(口腔内の洗浄や綿を詰めるなどの処置)を行なっていく為、ふっくらとする含み綿が必要か、口元は閉じてしまっていいのかなど、私達納棺士が知らない、故人の雰囲気や普段の表情を、唯一答えを持つ遺族から、ヒントをいただきます。


その後、故人のお体の状態を確認し、必要な処置を行います。
その際ピンセットなどを使いますので手元は見えないよう隠して行ないます。場合によっては別室でお待ちいただくこともあります。
お顔、お体の処置が終わると、立ち会う方みなさんにお集まりいただいて納棺式が始まります。

まずは着せ替えです。
通常、仏式ですと、白い経帷子という着物(仏衣)に着替えをするのですが、最近ではお気に入りの洋服や着物などに着替える方も増えてきました。また、仏衣のバリエーションも増え、羽織が付いているもの、刺繍がしてあるものや、色や絵柄などたくさんある中から遺族が選びます。
この「故人のためにどうするか、考える」は、葬儀の間に、何度もご遺族が行うことになります。この「故人のためにどうするか、考える」が、私はとても大切だと思うのです。

葬儀業界もサービス、ホスピタリティを重視するあまり、提供する側の満足の為だけになってはいないかと思う事もあります。

例えば、亡くなったおばあちゃんが「とらやの羊羹」が好きだったという話が納棺式で出ました。告別式まで時間があるので、明日買いに行こうと盛り上がります。それはいいですね、と私が言うと、後から葬儀担当者からあまり余計なことをするなと注意を受けます。不思議に思い、何故か聞くと、遺族の情報がなく納棺式で出てきた故人が好きな、とらやの羊羹を担当者がサプライズでご遺族へプレゼントしたかったようです。
ご遺族が自身で準備をしたら、他のサプライズをまた、考えなくてはならない・・・。いったい、誰の為のサプライズでしょう。

着せ替えが終わると旅支度を行います。足に足袋、脛に脚絆、手には手甲、首に下げた頭陀袋には六文銭を入れます。ご遺族が冷たい体に一つずつ丁寧につけていきます。冷たい体に触れるのは亡くなったことを突きつけられるようなことです。無理をしないで済むように納棺士がリードします。

f:id:aki0602:20191012155811j:plain

亡くなった人のために何かしてあげること

以前、男手一つで3人のお子さんを育てた大工さんであるお父さんの納棺式をお手伝いしたことがあります。
殺風景な部屋でしたがきちんと整理され、和室の横にはグレーのコンクリートで舗装された土間があり、綺麗に大工道具が並べられていました。息子さんは最初、ぶっきらぼうに「親父との思い出なんてないから棺に入れるものは無いんだ」と話されていました。それでも、何とか関わって頂きたくて一緒に旅支度をして頂きました。

足袋を履かせようとした時、娘さんが、仕事の時に履いていたこだわりの足袋がある事を思い出しました。是非履かせてあげましょうと足袋を探してもらいます。和室の茶色いタンスから出てきた「束の足袋」を見た時は、お子さん達とつい笑ってしまいました。
旅支度の足袋は愛用のものを履かせ、もちろん予備の足袋も棺の中へお入れしいました。

子供達を一生懸命育てていたお父さんの働く背中を今、棺が置いてある和室から見ていた事を思い出した子供達。お父さんとの思い出も結構あるね、と名残惜しそうに棺の蓋を閉めました。

ご遺族の多くは、亡くなった方の為に何かすることで、自分たちの感情の理由と意味を見つけ出していきます。

 

死化粧ってなに?

納棺師ってどういう仕事?と聞かれた時、私は亡くなった方にお化粧や着せ替えをする仕事です。と答えでます。
メインとも言えるお化粧は着せ替え、旅支度を行った後に行いますが、その前にお顔の産毛、お髭を剃っていきます。皮脂などの汚れを取る意味もあり、肌の状態が可能であれば小さな子供以外はお剃りすることでお化粧ののりも良くなり、より自然なお化粧が可能になります。
私達納棺士の化粧はアザや顔色を補正し、その人らしさを感じる自然なお化粧に再形成します。仕上がりを見ると自然であまりお化粧してないように見えるお化粧程、難しく技術がいるのです。亡くなった方が男性の場合は特に配慮が必要になります。

普段お化粧をしていない男性が顔色を整えるため、お化粧したら「きれい」にはなるかもしれません。しかし、遺族が求めているのは亡くなった方のその人らしさ・・・本当に難しいのです。

20年以上納棺士を続けている先輩納棺士でさえ、日々腕を磨くために情報収集やメイク道具や化粧品の研究を続けているのだから死化粧の世界は1度足を踏み入れたら見えないゴールを目指して歩き続けななければならない。

奥が深過ぎる世界なのです・・・。

 

化粧が終わるといよいよ納棺です。

 

棺の中はこの世?あの世?

お布団に寝ている故人は、ご遺族にとってまだ死と生の中間にいる存在なのかもしれません。ご遺族は生きている人に話しかけるように声を掛けます。
納棺はご遺族の手でお布団に寝ている故人を棺の中に移動をします。
棺は厚さ数センチの板でできていますが、このたった数センチの、仕切りの向こう側は、ご遺族にとって死の世界であり棺に入ってしまうと、急に遠くに行ったように感じる方が多いのです。辛い時間でもありますが、同時にもう、大切な人が戻らないという、事実を受け入れなくてはいけない、ご遺族にとってとても大事な時間でもあります。

納棺が終わると棺の中に思い出の品、あの世の旅立ちの為に故人へ持たせたい物を、お入れしていきます。私はこの時間が大好きです。時間が許すならいくらでもお話を聞いていたいぐらい、一人一人全く違う物語があります。

納棺式は1時間〜1時間半ぐらいの短い時間です。しかし、この時間にご遺族は故人との繋がりに気づき、その繋がり=縁を別な形へと繋ぎ直すのです。