最後にありがとうと言えたなら ~亡くなった方が教えてくれたこと~

大切な方とのお別れの仕方をご遺体が教えてくれました

天使になった子供達

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小さな子供の納棺は何度経験しても心が痛くなります。
 
ハナちゃんは2才の女の子です。昨日までお父さん、お母さんにかわいい笑顔で大好きな絵本を読んだり、お父さんの脱いだ洋服を洗濯機へとトコトコ歩いて片付けたりしていました。
 
しかし、突然死は家族からハナちゃんを無理やりちぎり取りました。
 
家に着くと奥からお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえます。
本当の事を言うと、中に入るのが怖くてしかたがありません。
私に出来る事があるのかなと不安で足がすくみます。
 
どんなに入るのが怖くても、葬儀の担当者と打ち合わせをした後、自宅へお邪魔することになります。
 
部屋には小さな布団と絵本や赤や黄色のぬいぐるみやおもちゃが綺麗に棚に並べられています。お布団の中には小さな女の子が寝ています。
小さな手が何かを握っているように伸ばされ、下着から小さな胸に刻まれた解剖跡の傷が見えています。早く隠して上げたい。
 
お母さんは手や足を摩りながら何で?何で?とこの理不尽な現実が我が子に、何故おきなくてはいけないのかを教えて欲しいと、涙を流しながら誰かに問いかけます。
 
ここで声をかけるのが正しいのかなんてわかりません。
只、私達の仕事が小さなお子さんやご両親にとって、なにか出来ると信じるしかないのです。
 
お母さん、今日はたくさんハナちゃんを抱っこしてあげましょう。
ハナちゃんの一番好きな洋服とお写真を用意して貰えますか?
 
お母さんが虚ろな顔で頷き、ハナちゃんから離れました。
 
小さな体には、死因を調べるためについた解剖の傷があります。手当が出来るのは今しかありません。
皆さんに一旦お部屋を出てもらい傷の確認です。
 
小さな体で頑張ったね。
泣きたくなるような気持ちで手当てをします。
 
出血などがないように、目立たないように肌色のテープを貼り首にはレースのついた布を巻きました。
 
体の手当を急いで行っていると、お母さんが白いワンピースとウサギが刺繍された黄色のカーディガンを持って着てくれました。
 
一時も離れたくない様子のお母さんに、一緒にお着替えをして頂くことにしました。
着ている下着の上からお洋服を着せると、乾燥して固くなった唇以外はまるでお昼寝をしてるみたいです。
 
子供の肌は大人と比べると水分量がとても多いため、心臓が止まり血液の循環が止まると、一緒に運ばれていた水分の補給も止まります。すると大人より乾燥が早く進んでいきます。指先は皺ができ、唇の色や形も変わってしまいます。


小さな体で頑張って来た子供達、せめてお顔は穏やかにしてあげたいと思うのはご家族だけではなく、納棺師も一緒です。
 
唇にワックスと少量の口紅を混ぜて固くなっている部分に乗せます。
 
お肌は普段塗っていたクリームをお顔と体に塗ることにしました。これはお父さん、おじいちゃん、おばあちゃんにも参加してもらい指先にまで皆さんにたくさん、塗って頂来ました。
 
後は私にすることは、あまり、ありません。
残りの時間は抱っこして過してもらうことにしました。
 
抱っこをするとお母さんの表情も、いつもハナちゃんを見るような、優しい顔に変わっています。
 
お母さん、お父さんと並び何度も頬に触れて名前を呼びます。先程までの「叫び声」ではありません。
 
2人が抱き終わるとおじいちゃん、おばあちゃんの番です。
実はおじいちゃんは目が見えないため、この抱っこが初めて孫の死を叩きつけられる辛い瞬間でした。
 
強面なおじいちゃんは、孫を抱くとソファに座りこんで声を出して泣くのです。
しかし、それを止める人もいません。ここはみんながその悲しみを理解し、共感出来る場所です。
 
悲しいのは当たり前だよね。こんな小さな愛らしい子供を取り上げられたんだもの。
 
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小さなクマがプリントされた可愛い棺が用意されました。
棺にお子さんを入れるなんて抵抗があるに違いありません。
 
ご両親には、まず、この棺をハナちゃんが眠るベットにしてもらおうと考えました。
 
棺用の白い敷布団を引くと
いつも使っていたピンクのウサギを模った枕とタオルケットを、広げてました。
 
ぬいぐるみもおじいちゃん、おばあちゃんの手で、いくつ入れてもらいました。
 
「これで寂しくないね」
 
最後にお母さんの手に抱っこされたハナちゃんは棺のベットに横になりました。
 
納棺式というお別れの場では、誰もが悲しみを自由に表現していいのです。大切な人が目の前からいなくなったら普通じゃなくていいのです。
 
結局、1時間30分の納棺式は抱っこするだけの時間となりました。
 
 
納得出来る人の死は、なかなか、ないものです。
 
納棺式をどう過ごしたかで、全ての方が納得出来る訳でも、悲しみが無くなる訳でもありません。
 
ただ、納棺式は亡くなった方を目の前にし、触れ、その方を想い悲しむ時間です。冷たい体に触れることでもう、戻ってこないと改めて叩きつけられる時間です。

認めたくないご家族にとってそれは辛い時間になるかもしれません。

 

しかし、亡くなった方のお体を前に行う限られたお別れの時間にしか、できないことがあると感じることが沢山あります。

 

 その時間に私たち納棺士に何ができるのか。
 
ご生前のお顔を思い出していただけるように、側でお別れができるように亡くなった方へ処置やお化粧、着せ替えをする。
 
そして、ご遺族の思いに耳を傾けて、ご遺族が亡くなった大切さ方に「何かしてあげたい」という願いを一つでも叶えることが出来たらというのが全ての納棺士の思いです。