ヒポクラテスの誓い
私が外部講師として携わったている納棺師の学校「おくりびとアカデミー 」の卒業試験が近づいてきました。
今回はコロナ禍の影響で1ヶ月遅れてのスタートになりましたが、その分、努力し学んだ生徒達が、いよいよ卒業です。
毎年のことなのに、今年もまた、生徒達の成長に感動し、巣立っていく寂しさも感じています。これって馴れないものなのかなぁ。
授業では、様々な先生から納棺師として必要な着せ替えや死化粧の知識。葬儀知識や亡くなった方の体の変化や、感染症対策。ご遺族に寄り添うためのグリーフサポートなど、たくさんのことを学びます。
卒業後は納棺師になる人もいれば、葬儀会社や自分のいた職場で学んだことを生かす人もいます。自分の身近な方が亡くなった時の為に勉強する方もいます。みんなが誰かの「おくりびと」になるため必死です。
しかし、学校でどんなに学んでも、その道のプロフェッショナルになるのは、実はまだまだずーっと先で、実際に経験を積んでかなくてはならないのです。
では、おくりびとアカデミーで学んだ生徒は何を得ることができたのでしょうか。
欧米では医師を目指す学生は「ヒポクラテスの誓い」を暗記するそうです。
ヒポクラテスは古代ギリシャの「医の倫理」の礎を築いた偉人です。
この宣言の内容は、自分に医学の知識を与えた人への感謝を忘れてはいけないことや、弟子が出来た時に自分の知識を惜しまなく伝えることが書かれた「師弟の誓い」やプライバシー保護や患者第一などの現在の医学倫理の根本となることが書かれています。
看護師さん達が戴帽式の時にろうそくの光に包まれながら、ナイチンゲール誓詞により誓いをたてる姿は本当に尊い姿ですが、この誓いもヒポクラテスの誓いをベースにしています。
元々professional(プロフェショナル)とは宗教に入る際の誓いを指すprofessからきているそうです。
聖職者や医師や法律家など、古代ギリシアにもいたであろうプロフェッショナルと呼ばれる人達。
誓いをたてることで、自分の仕事の存在する意味を理解し、規律を守りながら仕事にあたっていたのでしょう。
おくりびとアカデミーで学んできた生徒達も、きっとそうであると私は感じます。
誰かのお別れのために、学校に入りたくさんの知識や、正しい倫理感を学んでいく中で、生徒達は何度も心の中で宣言をしてきました。
「ご遺族が安心してお別れの時間を過ごして貰うために、頑張って覚えよう!」
「ご遺族のもつ正解に近づける為に、もっといいやり方があるかもしれない!」
そして自分の中に理想のおくりびとを描き目指してきました。
自分の仕事の意味を考えることもせずに、自称プロフェッショナルを掲げているひとはたくさんいます。
全ての仕事が、誰かの為の仕事です。
例えば飲食店の接客の仕事は、食べに来てくれるお客さんが、気持ちよく過ごしてしてもらう為に必要なお仕事です。私がお世話になっているAmazonの配達員さんは欲しいと思った商品を自宅まで丁寧迅速に届けてくれる為に働いてます。
町工場で作られている小さなネジの1つだって作ってくれる人がいるから、多くの人の生活を支える1部として世の中に出でいくのです。みんなが誰かの為に働いているのです。
そして年数を重ねて行くと誰でも、その道の専門家になることができます。
しかし、自分が誰かの為に働いていることを理解し正しい知識を学び、技術を磨き続けることを誓ったプロフェッショナルはどのくらいいるのでしょうか?
おくりびとアカデミーの卒業した生徒は
これからも、誰かの為に、おくりびとの精神と技術を磨き続けることができるプロフェッショナルの卵達です。
この半年間に学び感じたことずっと忘れないで欲しい。
そして、私自身そんな生徒達に携われたことを心から感謝しています。