最後にありがとうと言えたなら ~亡くなった方が教えてくれたこと~

大切な方とのお別れの仕方をご遺体が教えてくれました

頑張ったと褒めて欲しかった

がんばったと褒めてほしかった

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理解されない遺族

「今回の喪主さん、旦那さんを突然亡くしたのにずっと笑ってるんだよね」そう言って葬儀の担当者さんは怪訝そうに私にドライアイスの入ったバッグを渡します。


納棺式を行っていると、突然の死別への反応として、なかなか人に理解して貰えない行動をとる方がいらっしゃいます。
この時の喪主様もそんな誤解を受けた1人でした。

 

ご家族のとお会いしたのは季節外れの大雪が降った次の日でした。

 

葬儀会社からの依頼は、お通夜までの6日間のドライアイスの交換と通夜の前に行う納棺式です。
亡くなったご主人は30代でバイクの事故で突然お亡くなりになりました。喪主の奥様も30代で小さなお子さんがいるとお聞きしています。


大きなメイクバックも心做しかいつもより重い気がします。


安置室がある式場は朝早くから社員総出で雪かきをし、駐車場にアスファルトの黒い道ができ、こちらですとご遺族を誘導しているように見えます。
しかし、社員や業者しか使用しない裏の階段は、昨日降った雪が固く張り付き、行く手を拒んでいるように見えます。
大きな荷物を持ち慎重にフラフラと歩き安置室への入口となる1番上の階段に何とか到着しました。

ドアの前に立つと中から女の子の声がしました。会話というより笑い声が聞こえてくることに驚き、開けようと伸ばした手を止めます。
暫く、耳を澄まし笑い声が止んだタイミングで「失礼します」
と声を掛けて中に入りました。

棺より一回り大きな保冷庫が3つ並ぶ部屋で奥様とお子さんは、コンビニで買ったおにぎりを召し上がっていました。
ご挨拶をして、お顔の傷を目立たなくするメイクをする旨を伝え、お食事中だったのでお時間をずらした方がいいか、立会をするかも確認します。

 

泣けない理由

どうぞどうぞ、男前にしてあげて下さい。奥様はニコニコしながら話します。
奥様は4歳になるお子さんにも「パパこれからお化粧するんだって」と説明をします。
正直お顔の状態をまだ知らないのでこのまま進めていいのか迷っていました。
お線香上げさせて下さい。ドキドキしながら焼香台の前に行くと小さく切り取られたガラス窓から、お父さんの顔が見えました。
バイク事故だった為ヘルメットに守られお顔の傷は頬の擦過傷と顎の内出血だけで思ったより小さなものでした。
奥様とお子さんに囲まれ、傷を隠し少し血色も足します。


「パパはおっちょこちょいだね、こんな怪我しちゃって」
奥様はお子さんに、まるでお父さんが生きているように話します。
「パパ、ダメだねー」後を追うようにお子さんが話かけます。

それから4日間、奥様はわざわざ、ドライアイスの交換に時間を合わせて、おにぎり持参でお子さんと一緒に霊安室へ通いました。もしかしたら、奥様は誰かがいることで自分を保っていたのかも知れません。
霊安室で何度か会うと少しずつ気持ちを話して下さることも増えました。
ご主人は転勤族で周りには頼る人がいないこと、子供が不安がっているから泣いていられないこと、笑ってないと泣いてしまいそうになること。
それを聞いてこちらが涙目になるのを見て、何で納棺士さんが泣くのよと笑って肩をたたくのです。

通夜になって九州の実家から奥様のお母さんがいらっしゃいました。少しほっとしているような奥様に1つ提案しました。
ご主人とお二人だけの時間を作りませんか?

奥様は少し下を向き、考えた後、決心したように顔をあげました。

納棺士さんも一緒に来てくれますか?

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二人だけの時間 

40名程が座れる式場には白を基盤とした花で作られた祭壇が飾られ部屋中が花の香りでいっぱいです。中央には笑ったご主人の遺影が飾られ、奥様とストレッチャー(移動式のベッド)の上のご自身を見下ろしています。
ご主人の元にゆっくりと近づき冷たくなった手を握りながら決心したように、ご主人を見ながらゆっくりと話します。

「頭を撫でて欲しいの」
「いい子、いい子して欲しい」

奥様の言葉がご主人に頭を撫でで欲しいと言っていることを理解をするのに少し時間がかかりました。

頭を撫でて貰うことは出来ますか?今度は私に向かって話します。

もちろんできます!

腕の関節をマッサージし、ご主人の手をゆっくり伸ばすと奥様が自分の頭をご主人の手のひらの下に潜り込ませます。
下を向きながら奥様は、ようやく小さな声を出して泣くことができました。

 

何度も
「私、頑張ったよね」と ご主人に語りかけます。


今私の隣にいる小さな背中の女性は、今まで子供を不安にさせないように、明るく振舞い頑張ってきました。
この姿を「おかしな行動」と言ってしまうのは、あまりに愚挙な行動です。

主人はいつもこうやって頭を撫でてくれたの。
そういって顔をあげて、私に投げかけた言葉をなんて返していいかわからず、本当に頑張りましたねとうなずくことしかできませんでした。

その後、納棺式、通夜と進むと奥様はまた、あの笑顔に戻りお子さんやご親戚、ご友人と話をされていました。何となく後ろ髪引かれる思いでその場を後にしました。

 

その後、2週間ほど経った後、葬儀会社の担当者から電話がありました。朝、式場へ寄ってほしいといわれ、指定の時間に伺うと久しぶりに奥様と娘さんにお会いすることが出来ました。

 

娘がどうしても渡したかったものがあると、手にもった小さな紙袋から折り紙で作った金メダルが出されました。「パパをきれいにしてくれてありがとう」
私は嬉しくて女の子のもとに走りより、金メダルを首からかけてもらおうと、ひざまつきました。背伸びをして私の首にメダルをかけると小さな手で私の頭をポンポンとなでながら、ありがとうと笑うのです。

あっ、ご主人のいい子、いい子だ!はっとして、私は奥さんと目を合わせると、奥さんはそうそうと頷きながら笑っていました。

私のような納棺会社に所属している納棺士は、葬儀会社から依頼を受けて納棺式という1時間~1時間30分という短い時間にご遺族のサポートをします。このように何日も遺族と顔をあわせるということはめったにありません。
しかも、こんな風に後日お礼を直接言っていただけることなどはあり得ないことなのです。

 

亡くなった方が教えてくれること

この経験は私が納棺士という仕事に一生向き合っていこうと決心する出来事となりました。

仕事の際にいつも納棺式の様子をメモしているノートがあります
故人様1人1人を忘れないように、日々の仕事に心が流されないように。いつも金メダルを貰えるように努力したいと思っています

私自身は、奥さんとしても、母親としてもどちらかといえばポンコツです
それでも、大切な方を亡くしたご遺族に、何かできることがあるかもしれない。
この仕事にはそんな魅力があります。


悲しみの感情に蓋をした状態の中、漏れ出して出てくる様々な反応には必ず意味がある。
そして、ご遺族が出してくれるサインに気づくことが、私に出来る何かを教えてくれるのです。