最後にありがとうと言えたなら ~亡くなった方が教えてくれたこと~

大切な方とのお別れの仕方をご遺体が教えてくれました

亡くなった後の夫婦喧嘩

f:id:aki0602:20211203111650j:image

大切な方を失ったご遺族の頭の中は決していい想い出だけではない。嫌な想い出、辛い想い出の中で止まっている方もいます。それはおかしいことじゃない。

以前納棺式でご遺族のお手伝いをしていた時の話。

亡くなったのは70代の男性、喪主の奥様、娘さん二人と息子さんとそのお嫁さん。お孫さんが数人のお立ち合いでした。

都内にありながら、お庭の広い一戸建てで、議員さんをされていたという男性は枕花に囲まれておやすみになっています。

二部屋続きの和室は畳が替えられたばかりなのか、縁がピシッと光り、い草の香りがします。

お家はそれなりに歴史遠感じる古さがありますが、この部屋だけは特別な空間となっています。掛け布団も敷布団も分厚く、お布団に寝ている故人にとっては気持ちのよい状態ですが、膝を布団の上に乗せて亡くなった方の手当てをする納棺師にとってはこの段差は困りものです。スキージャンプの選手が今まさに、ジャンプ台を飛び出したような格好では腰が耐えられず、布団の下に足を潜らせてお手当をしていきます。

 

お布団の周りには今日着せるであろう三つ揃えの紺のスーツと白いワイシャツと赤いネクタイが広げてあります。枕の脇には手紙や写真が何枚も置かれていました。

ご病気で痩せてはいるものの、きっと良き夫であり、自慢のお父さんであり、威厳のあるおじいちゃんだったんだろうなと感じました。

 

納棺式が始まりスーツに着せ替えるとおじいちゃんカッコいい!の声があちこちから聞こえてきてきます。授業参観日に一度お父さんがきた時に、父兄の方達が子供ではなくお父さんを見ていた話や、剣道が強かった話。50代ぐらいの娘さん2人と息子さんが中心となり自慢のお父さんの話で盛り上がっています。

こうなると納棺師は一歩引いてご遺族にお任せです。改めてご遺族の様子見てみるとー。

思い出話に盛り上がるごきょうだい、それを聞いて笑っている孫達。いい光景です。

お嫁さんは静かに写真を眺めています。奥さんはと視線を移すと、、、あれ?全く笑ってません。みんなを見ているようで見ていない。なんか違和感があります。疲れているのかな?とも思いましたが、ちょっと違うようにも見えます。

 

最後のお蓋じ閉めの際に、ご遺族の輪の後ろにいる奥様に、何か気になることはないか確認しました。棺に入った後顔も見ていない奥様に、これから棺の蓋を閉めることも伝えました。

すると優しそうな品のいい奥様から、

「あの人はみんなが言うようないい人じゃない」と絞り出すような言葉が漏れ出ました。

棺の周りにいる家族には聞こえないような小さな声でしたが、かすれたその低い声に、私は心臓を掴まれたみたいにドキッとしました。どんな方だったのですか?と聞きましたがその後は一言も話されることはありませんでした。

 

 大切な人を亡くしたという共通の出来事に家族は別々の反応を見せます。

いつまでも悲しい人もいれば、想い出を振り返って笑顔の人もいるし、嫌な思いでの中で固まっている人もいます。

中にはその違いから心を閉ざしてお別れの時間を過ごす方もいらっしゃいます。

 

いいお父さん、いいおじいちゃんという家族の印象の中で奥様は口を閉ざしていました。

納棺式の中で奥様の本当の気持ちを聞くことはできませんでしたが、葬儀の担当者に引き継ぎをして帰りました。後で聞いたお話ではお葬儀が終わったあと、奥様の愚痴がすごかったと聞きました。

納棺師さんが言ってた「ずっと近くにいたからこそ他の方と違う側面を見ていたのかもしれない」って言葉そのまま奥さんにいったら、初めて泣いていたよ。

担当者さんがもし、いいご主人だったのですねとか言っていたら、奥さんはまた気持ちの蓋を閉めてしまっていたかもしれない。

今回は担当者さんと連携が取れて上手く?行きましたが、しばらくは納棺式で私がかけた「どんな方だったのですか?」と問いも奥さんにとっては責めてるように聞こえてたかもなあとか、あの時、奥さんに言われた一言を私はちゃんと受け止めていたかな?と自問自答しながら過ごしました。

 

身近な悲しんでる方の側にいるとき、つい自分が感じている印象を抱えて話をしてしまうことがありますよね。ご主人いい人だったよね。いつも綺麗な奥さんだったよね。

そんな言葉がご遺族を癒すと信じている。

でも本当にそうなのかな。

生きていれば夫婦喧嘩もできて、嫌なところも言い合える。亡くなってしまうと急にそれができなくなってしまうのです。亡くなった人の悪口は言えずに心の奥に閉めてしまうことが多いから。

 

私も時々旦那の愚痴を友達に話すこともある。その時は頭にきて、話もしたくないと思うだけど一緒にいるとまた、新しい日々が重なって私と旦那の想い出になっていく。もちろんまた、喧嘩をして、怒ったり泣いたりしてる時もあるけどその中には笑ってる私や喜んでる私もいるんだよね。

 

だから、

亡くなった方の文句や愚痴も言ってもいい。

そこで止まらず歩き始める為には亡くなった後の夫婦喧嘩も必要なのかもしれない。