最後にありがとうと言えたなら ~亡くなった方が教えてくれたこと~

大切な方とのお別れの仕方をご遺体が教えてくれました

お化け屋敷と納棺士

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私は人に感謝されることに慣れていません。


お気づきかもしれませんが、私の妻や母親としての能力はかなり低くめです。忙しくなると部屋が汚れてくるし、夕ご飯のおかずも大量に盛られた、野菜炒め1品なんてこともざらにあります。子供や夫からのありがとうより、私がごめんねと言うことばかりです。
 
納棺師になりたての私はとても調子に乗っていました。


それは自分がしたことに対して「ありがとう」といわれる経験が極端に少ない主婦が急に「ありがとう」といわれる仕事と出会ってしまったからです。
 
私は自分が遺族の救世主になれるかもしれないなどという馬鹿な妄想に憑りつかれていました。
 
青白くなった顔に赤みを足し、薄くお化粧するとご家族が
「ありがとう、まるで眠ってるみたい」と涙を浮かべます。
それは、遺族自身が、自分の力で元気な頃の大切な人の姿を見つけ出した結果です。
 
しかし、わかっていない私はまるで自分が解決してあげた! というとんでもない誤解をしたまま突っ走っていきます。
 
そしてすぐに壁にぶち当たる・・・。
 
15歳の女の子の死化粧をしていた時です。ご希望されたピンク色の口紅を塗り始めると、今まで穏やかにお話していたお母様が「全然変わってしまった! なんて事をするの!」と怒り始めました。一度怒り出したお母様の怒りは収まりませんでした。綺麗にお化粧したのに……。うろたえている私を見かねて、先輩が対応にあたってくれました。
先輩は一度化粧を落とすと静かに話を聴きながら、私よりずっと薄いお化粧でお母さんを喜ばせました。しかも「さっきの人にもお礼をいいたい」とまで言わせたのです。
 
亡くなったお嬢さんは、自分の顔が、とても嫌いで最近は濃いお化粧ばかりしていたようです。結局、どんどん自分の事が嫌いになったお嬢さんは自ら命をたってしまいました。
 
化粧をしたお嬢さんの顔をみて、お母様は「自分の大切な娘の大好きな素顔を隠したくない」と思いました。そしてお化粧した娘さんの顔を見たとき、もう一度娘が手の届かない場所に行ってしまうような不安を感じたようです。
 
その体験をきっかけに私は急にご遺族と接するのが怖くなりました。

 
悲しんでいる人はいろんな感情が沸き上がってきます。悲しんでいる人と接することが怖いと思った。
 
誰でも悲しんでいる人を見るのは辛いと思うのです。


だから、おばあちゃんの納棺式に小学生の孫を参加させてたくない、子供を死から遠ざけたいという人もいます。
ずっと泣いている遺族に「そんなに泣いたら亡くなった人が悲しむよ」なんて言葉をかけるの人もいます。


納棺式で泣かなきゃ遺族はこれから泣ける機会を失ってしてしまうかもしれないのに...。
 
それは孫のためでもなく、遺族のためでもなく自分が悲しんでいる人をみたくないからなのかもしれません。
 
壁にぶち当たり、それでも毎日仕事は続きます。
 
もちろん悲しい納棺式だけではありません。遺族がワイワイいろんな話をし、笑って送ることも多いです。


 
どんな納棺式であっても、納棺師は1時間という時間で初対面の遺族に、安心できる存在だと認識してもらわなければなりません。
 
失敗すれば遺族はすぐに心のシャッターおろしてしまいます。一度おろされたシャッターはなかなか戻ることはありません。そうなると遺族は自分の感情をだそう、大切な人の死に向き合おうなんて思えなくなります。
 
大切な人を失った「悲しみ」という感情は「怖い」という感情に似ていると思う事があります。


これからどうなってしまうのか?

自分がこの悲しみという感情に支配されてしまうのではないかという怖さ。

真っ暗な暗闇で先がみえない怖さが、悲しみの成分なのかもしれません。
 
遺族はお化け屋敷のような真っ暗な通路を、これから何が飛び出してくるのか分からず、何の灯りも持たず歩いています。早くここから出たい。きっとそんなな状態です。

 

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今年のゴールデンウィークに友達数人で富士急ハイランドにいける事になり、話の流れでお化け屋敷にみんなで入ることになりました。
 
私はお化け屋敷は嫌いなので滅多なことでは入らないのですが、どんな場所か分かれば怖さも半減するかと思い私はネットで調べることにしました。
どうやらこのお化け屋敷は「廃病院」が舞台になっているらしく、驚かすのも人なので怖さのバリエーションも多そうです。
しかも一本のペンライトを持たされ、途中でそれを奪われてしまうらしい。なんて怖い事を思いつく人がいるのでしょう!
私は結局このネットの記事を読んで「怖気づいて」しまい結局、一人外で荷物番をすることにしました。
 
納棺師という仕事柄、お化けやゾンビのメイクを見ても怖くはありません。
偽物に目を覆ったりはしません。私が怖いのはお化けではなく何が飛び出してくるかわからない怖さと暗闇です。
そんな暗闇の中、ヒーローが登場して大きな声で「安心してください! 出口はあちらです!」なんで急に耳元で叫ぶ。
もし、自分がこんなことされたら脅かしてくるお化けと同じ「敵」です。全力で逃げるか、ぶん殴るかどちらかです。
 
きっと納棺師駆け出しの私はこんな感じだったと思うのです。
 
お化け屋敷で怖がっている人に声をかけるのは難しいと思います
 
私は考えます。
お化け屋敷で一番の安心する瞬間はいつ?
それは出口の光を見つけた時にこの暗闇から出る事ができる。この怖さから解放される。そんな瞬間かもしれません。
 
その灯りはそんなに近くではないけれど、しっかり明るく光っている。
そんな光になれたら私も、大切な人を亡くした遺族にシャッターを閉められることもなくなるのかもしれません。
 
お化け屋敷での正しい声のかけ方は、。まずは急に近づかない。
声を出さず出口の明かりのようにそこで待つ。
そして向こうから近づいてきたところで静かに話す。
 
これができたら、遺族の悲しみにも寄り添えるのかもしれません。
 
いろんな経験をして、自分なりに勉強もしました。以前よりは少し出口の明かりに近づけてるような気もします。少なくてもご遺族の耳元で「ヒーロー参上!」と叫ぶ事はなくなりました。